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恋愛自給自足の間

恋愛における空想の重要性について。それと趣味。

『友情化する社会――断片化のなかの新たな<つながり>』(著:デボラ・チェンバース)

読書

 

 「共同体」や「家族」が衰退している(と一部で嘆かれている)現代において、「友情」という概念が重要性を増してきている。たとえば、「友達のような親子関係」「友達のように平等な結婚」などが語られることも、今では珍しくないだろう。「友情」は自由で平等、そして不安定なものとして、現代社会の有り様を反映した関係性だと考えられている。

 

 そんな「友情」をキーワードに、社会学ジェンダー論、メディア研究、さらに哲学や思想までを体系的にまとめ上げたのが、『友情化する社会――断片化のなかの新たな<つながり>』 である。

 

 上に述べたとおり、「友情」という概念はある種の理想的なものとして、家族やカップルなど様々な関係にまで影響を及ぼしている。しかし一方で、友人関係がもたらす社会的影響にはジェンダー的な差があること、そして小中学校での友人関係を通じて性差別的な価値観が再生産されていることなども、本書は指摘している。


 たとえば著者・チェンバースらが調査した結果、「女性に対抗する男性の絆の形成が少年期に始まっている」ということが明らかになった。

私たちは十二~十四歳の少年少女を対象に、それぞれ同性だけのグループを作ってインタビュー調査を行ったが、少年たちには異性愛者であることをことばや行動で示すようにうながす強いプレッシャーがかかっていた。このプレッシャーは、少女に対する、あるいはまた、異性愛的男性性の基準から外れた少年に対する性的ないじめとなって発露する。
(p.102 第三章「ヘゲモニックな男性アイデンティティと男同士の絆」)

 

 女性の友情についても、肯定的な側面と否定的な側面をともに描き出している。本書では「家庭を持つ女性」「職業を持つ女性」「独身女性」の三つを個別に議論しているが、ここでは差し当たり二か所から引用しておく。

独身か結婚しているかにかかわらず、すべての年代と集団における女性の友情は、家族にとっての価値によって評価される。このようにして、女性の友情とそのネットワークは、「ケアする自己」という女性性の言説に拘束されているのである。
(p.122 第四章「女性のアイデンティティと女同士の絆」)

育児の責任を負う女性は、仕事帰りに一杯つきあうことができず、また職場での性的なポリティクスも、女性が男性と仕事上の関係を築くのを難しくしている。そうしたなかで、女性がもつ仕事上のネットワークは、男性同士のインフォーマルなネットワークに代えて、たがいの信頼感を生みだし、支援をうながすものとなっている。
(p.131 第四章「女性のアイデンティティと女同士の絆」)

 

 このほか、インターネットの発達が人間関係をどのように変化させたか、という点についても有意義な記述がある。

 ネットによって既存の関係性が破壊されているのではないか、と懸念する論者もいるが、逆に「ネットは既存の関係性を強化するとともに、遠く離れた相手とのコミュニケーションを促進するように作用」しているのだ(p.198 第6章「ネットワーク社会」)。また、「社会的に弱い立場にある集団やマイノリティ集団のネット利用に関する研究によれば、ネットには社会的平等と地位の向上をうながす大きな可能性が認められる」という指摘もある(p.203 同章)。

 

 以上のように本書では、ネット時代における"リアル"での人間関係、グローバル化時代のアイデンティティ形成のあり方など、多くの現代的問題についても重要な知見がまとめられている。

 

 一方で、原著の出版が2006年ということもあり、ネットや携帯電話に関するいくつかの調査が若干時代遅れになっている側面もある。しかし古びたのは個々の調査のみで、根本を貫く問題意識は、今でも間違いなく有益なものである。

 本書は現代の人間関係を考える上で、重要な出発点となる一冊だと言えよう。

・本書の目次

序章
第1章:社会的紐帯の理念の変容
第2章:対人関係における自由と選択
第3章:ヘゲモニックな男性アイデンティティと男同士の絆
第4章:女性のアイデンティティと女同士の絆
第5章:「共同体」の衰退と隆盛
第6章:ネットワーク社会
第7章:ヴァーチャルな親密性とオンラインでの交友
第8章:社会的関係性と個人的関係性のポリティクス